2018年10月の定例講演会/米中貿易戦争と日本企業のグローバル戦略のあり方/東京財団政策研究所主席研究員・柯隆 氏

日 時  2018年10月24日(水) 午後1時30分~3時

会 場  崎陽軒本店5階「マンダリン」

講 師  東京財団政策研究所主席研究員  柯 隆 氏


 東京財団政策研究所主席研究員の柯隆(か・りゅう)氏が「米中貿易戦争と日本企業のグローバル戦略のあり方」と題して講演。米中貿易戦争の発端は「国家主席の任期が撤廃されたことだった」などと話した。
講演要旨は次の通り。

 ▽2018年は、日本にとって明治維新150年、中国にとっては改革開放40年。日本は明治維新で法律などの制度や文化といったソフトパワーを学び、中国が40年間で学んだのは技術だけ。問題は、ソフトパワーを学んでいない中国に持続的に発展していく制度の土台ができていないことだ。
 ▽中国は三つの罠(わな)に直面している。それは、①自国の人件費上昇や先進国との技術格差などで経済が停滞する「中所得国の罠」②政府への信頼が失われ、政府の言うことが全てうそと見なされる「タキトゥスの罠」③既存の覇権国家に新興国が挑戦しぶつかる「トゥキディデスの罠」-だ。③の罠では米中の対立は不可避で、貿易戦争はきっかけにすぎない。
 ▽結論から言うと、米中貿易戦争は長期化する。両国の対立は3月の全人代で国家主席の任期が撤廃されたことに始まる。トランプ大統領や議会は、中国の経済が発展すれば民主化が進むと期待していたが、習近平氏が無期限に国家主席にとどまり「王様になる」ことは、米国の価値観に触れ許せないこと。米国が貿易不均衡是正を強く迫った背景だ。
 ▽日本企業は、焦らず状況を見極め戦略を立てるしかないだろう。チャイナリスクやグローバルリスクのコントロール、国内外の経営資源の再配置、部品などの供給網の再構築に取り組むべきだと考える。

 

 

か・りゅう 中国・南京市出身。名古屋大学大学院経済学修士取得。1994年長銀総合研究所入社、国際調査部研究員として中国の金融制度調査や電力などのインフラ産業の調査に携わる。98年10月より富士通総研経済研究所主任研究員、2005年6月同研究所上席主任研究員、09年6月から同研究所首席研究員。18年4月から現職。財務省外国為替審議会委員、同省財務政策総合研究所中国研究会委員、内閣府政策評価担当として活躍を続ける。ほかに静岡県立大学特任教授、広島経済大学客員教授も勤める。

著書・論文に 「『一帯一路』の大望とリスク」( 慶應義塾大学出版会、2018)、「中国が普通の大国になる日」( 日本実業出版社、2012)、「チャイナクライシスへ警鐘~2012年中国経済は減速する」(日本実業出版社、2010)、「華人経済師(エコノミスト)のみた中国の実力」(日本経済新聞出版社、2009)。